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補完・代替医療総覧(12)

連載12


―補完・代替医療総覧ー
患者の問いに答えるために


長谷川 淳史 (TMSジャパン代表)


全人的アプローチを掲げる補完・代替医療の世界的潮流と未来、そこに垣間見える光と影を探る。


アガリスク

免疫力を高め、がんの進行を遅らせ、がん患者の生存率を高めるといわれ、わが国のがん患者がもっとも多く利用しているサプリメントに、アガリクス( Agaricus blazei Murril )というブラジルに自生するキノコがある。柄が太長くて香りの強いハラタケ科ハラタケ属のキノコだが、わが国では「ヒメマツタケ」「 カワリハラタケ」とも呼ばれている。


アガリクスは、他のキノコに比べるとタンパク質が豊富で、 多糖類、ビタミンB 1 、ビタミンB 2 、ナイアシン、ビタミンB 6 、ビオチン、パントテン酸、葉酸、アミノ酸、ビタミンD、マグネシウム、カリウムなどを含む。ただし、菌株や栽培条件、産地によってその特性や含有成分が異なる。

わが国には 1965 年にブラジルから菌株が持ち込まれ、 1970 年代後半から 人工栽培されるようになり、食用の「ヒメマツタケ」として販売がはじまった。 1980 年代に入ると、いくつかの研究機関から抗腫瘍作用や血糖降下作用などが学会で報告されはじめた。

また、米国のレーガン元大統領が皮膚がんの治療に利用していたという報道(真偽のほどは不明)、さらには「末期がんに効く」と謳った書籍が続々と出版されたことで、乾燥キノコや抽出エキスなどが瞬く間に普及し、ついには 350 億円という巨大市場を形成するまでになった。

試験管内もしくはマウスを使った実験によると、アガリクスの 抗腫瘍作用 の有効成分として β- グルカンや低分子分画のABMK -22 などが知られており、具体的な免疫賦活作用としてはマクロファージ、NK細胞の活性化、樹状細胞の活性化および成熟化誘導などが報告されている。

アガリスクの有効性

アガリクスはがん患者がもっとも多く利用しているサプリメントなのだから、その有効性を示す臨床試験が数多く存在すると思いきや、実際にはヒトを対象にした研究はほとんど行なわれていない。 免疫賦活作用や 抗腫瘍作用があるといっても、がん患者ではなく 試験管内かマウスを使った実験 によるものである。

たとえば Mizuno らは、 アガリクスの熱水抽出物をマウスに経口投与したところ、脾臓細胞内に Leu 4陽性細胞 ( pan T cell ) ならびに CD 4(ヘルパーT細胞)、CD8(キラーT細胞)が陽性化したリンパ球の増加がみられたことから、アガリクスはヒトのがんを予防する可能性があると報告している。

Fujimiya らは、腫瘍細胞を腹部右側と左側の皮下に移植したマウスを用い、アガリクス 子実体の酸化処理転写因子(ATF)を原発腫瘍に注入した結果、抗腫瘍活性が著しく上昇したナチュラルキラー細胞が離れた腫瘍部位にまで浸透していた。また、試験管内における観察によると、ATFはアポトーシスによって腫瘍細胞を直接抑制したと報告している。つまり、アガリクスの 抗腫瘍作用は、 ナチュラルキラー細胞の活性化とアポトーシスによってもたらされるというのだ。

Liu らは、マウスにアガリクスの熱 水抽出物もしくは冷水抽出物 を経口投与したところ、抗腫瘍作用(腫瘍増殖の抑制)、炎症性サイトカイン抑制作用(TNF -α の増加抑制)、肝臓保護作用(GOT上昇の抑制)が確認されたと報告している。

もちろん、試験管内や動物実験で得られた結果が、そのままヒトにも当てはまると考えるのは危険である。しかし、がん患者ではないものの、 Liu らは健康な成人を対象にパイロット研究、すなわち本格的な臨床試験に進む価値の有無を判断するために、とりあえず少人数を対象に行なう予備的研究も行なっている。

まず、健常成人8名(平均 22.3 歳)を対象とした二重盲検クロスオーバー試験では、プラシーボ群では変化がなかったのに対し、アガリクス錠( 3g/ 日を7日間)摂取群では末梢血におけるNK細胞の活性化が認められている。

また、健常成人 12 名(平均 45.3 歳)にアガリクス錠( 3g/ 日)を3ヶ月間摂取させたところ、体重、BMI、体脂肪率、内臓脂肪率、血糖値の低下がみられたという。

やはりがん患者ではないが、 Hsu らもヒトを対象としたパイロット研究を行なっている。 2型糖尿病に1年以上罹患しており、グリクラジドおよびメトホルミン(いずれも糖尿病治療薬)を6ヶ月以上服用している中国人 72 名 (20 歳~ 72 歳 ) を対象とした二重盲検無作為対照試験である。 それによると、 1 日 1500mg のアガリクス抽出物を 12 週間摂取した群は、プラシーボ群に比べて空腹時の HbA1c 、インスリン濃度、インスリン抵抗性が低下し、血漿アディポネクチン濃度の上昇が認められたという。



しかしながら、図1に示すようにこれだけの情報ではアガリクスの有効性を判断できない。事実、国立健康・栄養研究所も「ヒトに対する有効性については参考になる十分なデータは見当たらない」としている。


参考文献&ウェヴサイト

1) 国立健康・栄養研究所
2) 内藤裕史『健康食品中毒百科』丸善株式会社, 2007.
3) アガリクス
4) 金沢大学補完代替医療学講座
5) Mizuno M et al, Polysaccharides from Agaricus blazei stimulate lymphocyte T-cell subsets in mice, Biosci Biotechnol Biochem, 62(3), p434-437, 1998.
6) Fujimiya Y et al, Selective tumoricidal effect of soluble proteoglucan extracted from the basidiomycete, Agaricus blazei Murill, mediated via natural killer cell activation and apoptosis, Cancer Immunol Immunother, 46(3), p147-159, 1998.
7) Liu Y et al, Immunomodulating activity of Agaricus brasiliensis KA21 in mice and in human volunteers, eCAM Advance Access Published online on April 12,2007.
8) Hsu CH et al, he mushroom Agaricus Blazei Murill in combination with metformin and gliclazide improves insulin resistance in type 2 diabetes: a randomized, double-blinded, and placebo-controlled clinical trial, J Altern Complement Med, 13(1), p97-102, 2007.
9) 代替医療問題取材チーム『免疫信仰は危ない!』南々社, 2004.
10) ウエンディ・ウエイガー他『がんの代替療法』法研, 2004.


(次号につづく)

代替医療通信, 第15号, 2007.

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