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補完・代替医療総覧(15)

連載15


―補完・代替医療総覧ー
患者の問いに答えるために


長谷川 淳史 (TMSジャパン代表)


全人的アプローチを掲げる補完・代替医療の世界的潮流と未来、そこに垣間見える光と影を探る。


グルコサミン

最近よく耳にするグルコサミン(glucosamine)は、カニやエビといった甲殻類の殻から抽出したアミノ糖の一種で、加齢などによって摩耗した軟骨を修復し、「関節の動きを滑らかにする」とか「関節痛を和らげる」といわれている。

わが国で関節痛を訴える者は、腰痛、肩こりに次いで3番目に多い。ことに中高年に多発する変形性膝関節症(以下膝関節OAと記す)患者は、約1,000万人に上ると推定されている。それにもかかわらず、医療機関を受診するのはわずか23%にすぎず、自分なりに対処している者が大半を占めている。

その対処法の中でも、グルコサミンを含むサプリメントの人気は高く、メディアやネットで大々的に宣伝していることもあり、その知名度はダイエット商品に勝るとも劣らない。

市販されているグルコサミンのサプリメントは通常、サメの軟骨などから抽出したコンドロイチンが含まれていることが多い。しかしここでは、まずグルコサミンに焦点を当てて検討してみたい。

グルコサミンの有効性

グルコサミンの有効性に関する結論は、いまだに一致していない。

たとえば、ベルギーのReginsterらが行なった二重盲検無作為対照試験では、212名の膝関節OA患者を対象に、グルコサミン1,500mg1日1回投与群とプラシーボ群に割り付け、1年後と3年後に評価している。その結果、グルコサミン群はどの時点においてもプラシーボ群より有効で、グルコサミンは症状を緩和するだけでなく、関節間隙狭小化も遅らせると結論づけている。

また、インドのUshaとNaiduも118名の膝関節OA患者を対象に、グルコサミン1,500mg/日群、メチルスルフォニルメタン(牛乳などに含まれる有機イオウ化合物で消炎鎮痛作用がある)1,500mg/日群、グルコサミンとメチルスルフォニルメタンの併用群、プラシーボ群の4群に割り付け、二重盲検無作為対照試験を行なっている。それによると、3ヶ月後の有効性はすべての群がプラシーボより優れており、もっとも有効だったのはグルコサミンとメチルスルフォニルメタンの併用群だったと報告している。

さらに、スペインのHerrero-Beaumontらが行なった二重盲検無作為対照試験では、318名の膝関節OA患者を対象に、グルコサミン1,500mg1日1回投与群、アセトアミノフェン群、プラシーボ群の3群に割り付け、6ヶ月後に評価したところ、プラシーボを上回る有効性を示したのはグルコサミンのみだったという。この結果を受けてHerrero-Beaumontらは、膝関節OAに対する第一選択薬を、アセトアミノフェンからグルコサミンへ変更すべきだとしている。

ところが、カナダのCibereらが行なった二重盲検無作為対照試験では、約2年間グルコサミンを服用していた137名の膝関節OA患者を対象に、グルコサミン1,500mg1日1回投与群とプラシーボ群に割り付け、6ヶ月間にわたって追跡調査している。その結果、症状の悪化が見られたのはプラシーボ群が42%、グルコサミン群が45%と両群間に差はなく、関節間隙狭小化にも差が認められなかったことから、グルコサミンの長期服用にはメリットがないと結論づけている。

アメリカのCleggらも1,583名の膝関節OA患者を対象に、グルコサミン1,500mg/日群、コンドロイチン1,200mg/日群、グルコサミンとコンドロイチンの併用群、セレコキシブ(COX2阻害剤)200 mg/日群、プラシーボ群の5群に割り付け、他施設共同による二重盲検無作為対照試験を行なっている。それによると、6ヶ月後の鎮痛効果はセレコキシブ群がもっとも高く、グルコサミン群、コンドロイチン群、両者の併用群は、いずれもプラシーボを上回る鎮痛効果が認められなかったという。ただし、中等症から重症の膝関節OA患者においては、グルコサミンとコンドロイチンの併用群がプラシーボより有効であることが示唆されている。

このように、二重盲検法まで用いた無作為対照試験の結果が対立しているのである。となれば、もっともエビデンスレベルの高い体系的レビューでは、どのように評価されているのかが気になる。

アメリカのSamsonらは、保健福祉省(HHS)の下部組織である医療研究・品質管理局(AHRQ)の助成を受け、膝関節OAの治療法に対する体系的レビューを行なっている。ヒアルロン酸関節注射に関する42件の無作為対照試験、グルコサミンとコンドロイチンに関する21件の無作為対照試験、関節鏡下手術に関する23件の研究論文を検討した結果、いずれの治療法にも科学的根拠が見出せず、グルコサミンやコンドロイチンの効果はプラシーボと同等でしかないと報告している。

体系的レビューでこのような結果が出たとなると、グルコサミンのサプリメント摂取で膝関節OAが改善したというのは、プラシーボ効果以外の何物でもない可能性が高い。

しかし、OAは股関節でもよく見られる病態である。もしかするとグルコサミンは、変形性股関節症(以下股関節OAと記す)に有効かもしれない。

オランダのRozendaalらは22名の股関節OA患者を対象に、無作為対照試験を行なっている。グルコサミン1500mg/日群とプラシーボ群に割り付け、2年間にわたって追跡調査したところ、両群間に疼痛、機能障害、関節間隙狭小化の差は認められなかったと報告している。

とどめはカナダのTowheedらが行なった、膝関節OAと股関節OAに対するグルコサミンの有効性と安全性に関するコクランレビューである。20件の二重盲検無作為対照試験を検討した結果、鎮痛効果という点では、質の高い研究や新しい研究であるほど、グルコサミンとプラシーボとの間に差が認められず、質の低い研究や古い研究であるほど、グルコサミンの方がプラシーボより優れていたという。また、機能改善効果という点では、評価方法によって結果が異なることが明らかとなっている。

こうしてみると、グルコサミンは研究デザインの優れた臨床試験に耐えられないようである。つまり、現時点における膝関節OAや股関節OAに対するグルコサミンの有効性は、プラシーボと同等と言わざるを得ないのだ。


参考文献&ウェヴサイト

1) 国立健康・栄養研究所
2) 厚生統計協会編『国民衛生の動向・厚生の指標』厚生統計協会,2005.
3) ひざの健康に関するアンケート調査
4) Reginster JY et al,Long-term effects of glucosamine sulphate on osteoarthritis progression:a randomised, placebo-controlled clinical trial,Lancet,357,p251-256,2001.
5) Usha PR & Naidu MU,Randomised, Double-Blind, Parallel, Placebo-Controlled Study of Oral Glucosamine, Methylsulfonylmethane and their Combination in Osteoarthritis,Clin Drug Investig,24,p353-363,2004.
6) Herrero-Beaumont G et al,Glucosamine sulfate in the treatment of knee osteoarthritis symptoms:a randomized, double-blind, placebo-controlled study using acetaminophen as a side comparator,Arthritis Rheum,56,p555-567,2007.
7) Cibere J et al,Randomized, double-blind, placebo-controlled glucosamine discontinuation trial in knee osteoarthritis,Arthritis Rheum,51,p738-745,2004.
8) Clegg DO et al,Glucosamine, chondroitin sulfate, and the two in combination for painful knee osteoarthritis,N Engl J Med,354,p795-808,2006.
9) Samson DJ et al,Treatment of primary and secondary osteoarthritis of the knee,Evid Rep Technol Assess,157,p1-157,2007.
10) Rozendaal RM et al,Effect of glucosamine sulfate on hip osteoarthritis: a randomized trial,Ann Intern Med,148,p268-277,2008.
11) Towheed TE et al,Glucosamine therapy for treating osteoarthritis,Cochrane Database of Systematic Reviews,2005.


未発表

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