腰痛治療最前線―TMSジャパン公式サイト-図書室



補完・代替医療総覧(6)

連載6


―補完・代替医療総覧ー
患者の問いに答えるために


長谷川 淳史 (TMSジャパン代表)


全人的アプローチを掲げる補完・代替医療の世界的潮流と未来、そこに垣間見える光と影を探る。


クワッカリーの有効性

いくらクワッカリーといえども、セット(期待感)とセッティング(環境設定)次第では驚くような効果を発揮することがある。とりわけ、その製品やサービスに対する期待感を、信仰心にまで高めることができればなおさらである。

長年にわたって世界中のありとあらゆる治療法を研究してきたアンドルー・ワイルは、すべての治療法には以下のような共通点があると結論づけている。

【1】絶対に効かないという治療法はない。
【2】絶対に効くという治療法はない。
【3】各治療法は互いにつじつまが合わない。
【4】草創期の新興治療法はよく効く。
【5】信念だけで治ることがある。
【6】以上の結論を包括する統一変数は治療に対する信仰心である。

そもそも医療の原型は、シャーマン、呪術医、魔法医、メディシンマン、ウイッチドクター、巫医(ふい)、ヴードゥー僧、カリャワヤ、ユタたちによる原始宗教にある。したがって、クワッカリーに対する信仰心が何らかの効果を発揮しても不思議はない。

それが自然治癒なのか、もしくは偶然なのか、それとも未知の力が働いているのかは別としても、プラシーボ効果(placebo effect)が関与していることはまず間違いないだろう。

では、プラシーボ(偽薬・シャム治療・クワッカリー)には、いったいどれほどの威力があるのだろうか。

プラシーボ研究の第一人者であるヘンリー・ビーチャーは、プラシーボによる平均有効率は約35%と報告し、つい最近までそれが医学界の常識とされてきた。ところが実際には、35%をはるかに上回ることがその後の研究で判明している。

当初は有効とされていたものの、後の比較対照試験によって無効と判断された治療法を再検討したアラン・ロバーツらによると、かつて現代医学が放棄した治療法の平均有効率は約70%にも達するという。表1に示すように、中でも外科手術のプラシーボ効果は群を抜いている。この事実は、医学の歴史はプラシーボの歴史、もしくはクワッカリーの歴史だったことを示唆している。

表1.プラシーボ効果の威力

出典 条件 治療法 有効率 備考
Beecher HK
1955
術後痛・咳・薬物で誘発された気分の変化・狭心症・頭痛・船酔い・不安と緊張・感冒 プラシーボ投与 35%
(15~58%)
プラシーボに関する論文15件
Cobb LA et al
1959
狭心症 両側内胸動脈結紮術
シャムトリートメント
63%
56%
すでに放棄された治療法
Dimond DG et al
1960
狭心症 両側内胸動脈結紮術
シャムトリートメント
100%
100%
すでに放棄された治療法
Spangfort EV
1972
腰下肢痛 試験切開 37~43% 病変が見つからず手術を中断
Goodman P et al
1976
顎関節症 シャムトリートメント 64% 咬合異常のシャム治療
Roberts AH et al
1993
気管支喘息 歯肉切除術 50~85% すでに放棄された治療法
単純ヘルペス レバミゾール
光化学的不活性化療法有機溶剤の外用薬
70~100%
85~100%
50~100%
十二指腸潰瘍 胃の凍結療法 65~100%

(笠原敏雄編,偽薬効果,2002より改変)


さて、わが国で医療機器を製造販売することは薬事法で規制されており、厚生労働省や各都道府県の承認を得なければならない。それゆえ治療器具や検査器具には「医療用具製造承認番号」が明記されているのだが、しかしだからといってその製品の有効性が保証されているわけではない。なぜなら、2005年3月までに承認された製品には、臨床試験が義務づけられていなかったからだ。

ところが2005年4月、薬事法の改正によって「医療用具製造承認番号」が「医療機器製造承認番号」へと変わり、医薬品と同等の臨床試験が求められるようになった。この承認は3年以内に更新しなければならず、これからは製造承認番号が「医療用具」なのか「医療機器」なのかを確認することが、クワッカリーを見分けるひとつの判断基準となるかもしれない。

クワッカリーを侮ってはならない。現代医学だろうとCAMであろうと、比較対照試験によってプラシーボ効果というバイアスを排除できるまでは、有効性という点においてクワッカリーと大きな違いはないからだ。

ただし、臨床試験においてすべてのバイアスを完全に排除するのは、現在の科学的手法では不可能といわざるを得ない。

というのも、被験者が臨床試験に参加していることを自覚している以上、自分は実験に参加している、観察されている、注目されているという意識から生じる、ホーソン効果(Hawthorne effect)の影響からは逃れられないのである。



(次号につづく)

代替医療通信, 第9号, 2007.

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