腰痛治療最前線―TMSジャパン公式サイト-図書室



補完・代替医療総覧(7)

連載7


―補完・代替医療総覧ー
患者の問いに答えるために


長谷川 淳史 (TMSジャパン代表)


全人的アプローチを掲げる補完・代替医療の世界的潮流と未来、そこに垣間見える光と影を探る。


クワッカリーの有効性と安全性

ある治療法の有効性を主張したいのなら、「われ使った」⇒「治った」⇒「ゆえに効いた」という『三た論法』を繰り返すのではなく、臨床試験によってその治療法の効果を証明する必要がある。そして自然治癒、プラシーボ効果、偶然ではないこと、すなわちその治療法によってもたらされた真の効果であることを立証しなければ、有効だという主張は単なる思い込みや幻想でしかない。

だからこそ現代医学は、無作為対照試験(RCT:Randomized Controlled Trial)や二重盲検試験(DBT:Double Blind Test)といった研究デザインを駆使し、ありとあらゆるバイアスを排除しようと昼夜を問わず努力しているのだ。しかし、それでもなお以下のようなバイアスが潜んでいる可能性がある。

【1】企画バイアス(Submission Bias)
研究費の獲得や自身のポストなどの問題から、すでに研究者は研究の企画段階からできるだけ有意差のある研究データや結果を求める傾向があり、研究にとって不都合と思われるデータを排除したり、その公表を遅延したりする傾向がある。

【2】出版バイアス(Publication Bias)
研究チームのメンバーも医学専門誌の編集者も、できるだけ有意差のある結果を掲載したがる傾向がある。また、なんらかの形でスポンサーがついている研究は、スポンサーにとって有利な方向へ流されてしまう恐れがある。

【3】方法論的バイアス(Methodological Bias)
研究方法に問題がある場合のほとんどは有意差のある結果となり、また問題が多いほどより有意差のある方向へ偏る傾向がある。

【4】要約バイアス(abstracting bias)
特に要約の内容だけを検索データとしているデータベースが陥りやすいもので、本文より要約の方がより有意差を強調する傾向がある。

【5】計算値上バイアス(Framing Bias)
統計計算上の偏りからくるもので、相対危険率などは陽性バイアスの原因となる。

【6】言語バイアス(language bias)
有意差が確認された無作為対照試験は、自国語よりも英語で報告される傾向がある。

したがって、どれほど研究デザインが優れていようとも、どんなにエビデンスレベルが高い研究だろうとも、その結果を鵜呑みにすることなど到底できないのだ。ことに安全性を評価する場合は、有効性以上に慎重でなければならない。

クワッカリーの安全性

クワッカリー(イカサマ師・インチキ療法・健康詐欺師)は、「即効性がある」「万病に効く」「奇跡的な効果」と声高に主張し、さまざまな健康関連商品(医薬品もどき・化粧品・意味のない食品・不必要な健康補助食品・ニセモノ医療機器)を盛んに勧める。だがその安全性を考えるとき、主に3つの問題点があることに気づく。

第1は、健康被害という直接的な問題である。

クワッカリーの宣伝文句の中には「天然だから」「自然だから」「食品だから」という記述がよくみられる。化学製品ではないことを強調し、あたかも副作用がないかのように思い込ませたいのだろう。

ところが、天然や自然のものには毒素を含んでいることもあれば、食品とはいえ特定の成分が濃縮されているもの、不純物が含まれているものがある。さらには、表示成分がまったく含まれていないものや、逆に違法医薬品が含まれていることを表示していないものまであり、安全どころか命に関わる危険性をはらんでいる。

また、特許番号や利用者の体験談、動物実験の結果、医学博士の推薦、あるいはマスメディアが取り上げた回数も、安全性とはまったく無関係である。なぜなら、いずれも科学的根拠(エビデンス)が元になっているとはいえないからだ。

エビデンスがあるというためには、ヒトを対象とした対照群のある臨床試験を行い、高い再現性が確認されなければならない。ところが、クワッカリーは医学の専門家ではないし医学教育を受けていない場合が多く、エビデンスよりも経済的利益を優先する。

そもそも、利用者が体調を崩すような副作用があったとしても、クワッカリーにその事実を公表する義務などない。それどころか、表沙汰になるのを恐れて隠そうとするだろうし、瞑眩(メンゲン)反応や好転反応と称して一時的なものだと説明するだろう。

これはきわめて危険なことである。とりわけ高齢者、妊産婦、授乳婦、小児、ならびに医師の治療を受けている患者やCAM(補完・代替医療)を利用している患者は注意を要する。エビデンスが存在しないということは、どんな悪影響や相互作用が現れるか予測できないことを意味するからだ。

もしクワッカリーから購入した健康関連商品を利用して体調が悪くなった場合は、直ちにその利用を中止して医療機関を受診し、またその際には「何を」「いつから」「どの程度」利用して「どんな症状が出たか」を医師に報告するよう勧めてほしい。また近くの保健所か国民生活センター、もしくは消費生活センターに相談し、過去に同じようなケースがなかったかを問い合わせてみるのもよいだろう。

第2は、治るチャンスを失うという間接的問題である。

クワッカリーの被害者は、自分の健康に漠然と不安を感じていたり、人一倍健康に気をつけている割には、現代医学に不信感を抱いていることが多い。そこにクワッカリーの付け入る隙が生まれる。

ところが、自己限定性疾患(self-limited disease:ある一定の過程を経て自然に終息する傾向を持つ予後良好の疾患)ならまだしも、命に関わるような危険な疾患が潜んでいる場合、クワッカリーの虚偽誇大広告を鵜呑みにして手を出すと、適切な医療を受ける機会をみすみす逃してしまうことになる。そうなってからではもはや取り返しがつかない。

また、命に関わるような疾患は、少しでも治療が遅れただけで手遅れになることがあるため、瞑眩反応や好転反応が出現した際にも十分な注意が必要である。

買い手危険負担(caveat emptor:悪い商品を買ってもその責任は売り手ではなく買い手にある)という言葉を念頭に置き、必要な医療を受ける機会を失うことだけは断じて避けてもらいたい。わが国には「健康のためなら命はいらぬ」という笑えない風潮があるようだが、そろそろ目覚めてもよい時期ではないだろうか。


(次号につづく)

代替医療通信, 第10号, 2007.

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