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補完・代替医療総覧(13)

連載13


―補完・代替医療総覧ー
患者の問いに答えるために


長谷川 淳史 (TMSジャパン代表)


全人的アプローチを掲げる補完・代替医療の世界的潮流と未来、そこに垣間見える光と影を探る。


アガリスクの安全性

Liu らが行なったパイロット研究では、健常成人 11 名(平均 43.6 歳)にアガリクス錠(9 g/ 日)を6ヶ月間摂取させたところ、体調、肝機能および腎機能に変化はなく、有害事象は認められなかったという。

ところが、薬剤性肝障害を起こす原因物質としては、ダイエット食品を除けばアガリクスはウコンに次いで2番目に多いという報告がある。また、天然のキノコ類には発がん物質のアガリチン(弱い遺伝毒性を持つ)が含まれており、東京都立衛生研究所の調査ではアガリクスから1~ 11 μ g/g のカドミウムが検出されている。

カドミウム濃度 0.2 ~ 1.0 μ g/g の米でタイタイタイ病の症状が出ることを考えれば、その5~ 50 倍のカドミウムを含んでいるアガリクスは、もはや健康食品といえるような代物ではない。事実、アガリクスによる健康被害が多数報告されている。


●アガリクスの摂取中に発熱および肝機能マーカー(AST、ALT、総ビリルビン値)が上昇し、肝炎と診断されたが摂取を中止すると正常値に戻った卵巣がんの 60 代女性。

●アガリクスを数日間服用した後に強い疲労感に襲われて入院し、AST、ALT、総ビリルビン値、プロトロンビン時間の上昇から急性肝炎と診断され、入院7日目に劇症肝炎で死亡した乳がんの 50 代女性。

●アガリクスを数日間服用したところ、食欲不振、吐き気および嘔吐などを訴え、肝機能異常 ( AST、ALT、総ビリルビン値の上昇 ) のため入院したが、入院7日目に劇症肝炎で死亡した骨転移があった乳がんの 40 代女性。

●健康増進を目的にアガリクスを摂取していたところ、3ヶ月後に全身の掻痒感、眼球結膜の黄染、褐色尿が出現し、薬剤性肝機能障害と診断され、摂取中止後 28 日目にほぼ回復した 50 代女性。

●術後の体力回復を目的にアガリクスを摂取していたところ、 1 ヶ月後に全身の倦怠感、食欲不振、吐き気、皮膚黄染が出現し、薬剤性肝機能障害と診断され、摂取中止後3ヶ月で回復した肺がんの 70 代女性。

●化学療法を受けながら自家製のアガリクス茸抽出液を飲用していたところ、激しい痒みと発疹が出現したが、服用中止後3日で改善した肺がんの 70 代男性。

●肝臓がんの入院加療中にアガリクスを摂取したところ、2週間後に呼吸困難が出現して薬剤性肺炎と診断されたが、摂取を中止しても改善がみられず、さらにステロイド剤のパルス療法を加えて改善した 60 代男性。

●胃がんの手術後からアガリクスを摂取したところ、3週間後に肝機能障害が出現し、摂取中止後3ヶ月半で正常化したが、再度アガリクスを摂取して肝機能が悪化した 50 代男性。

●肺がんの手術直前からアガリクスの摂取を開始し、術後4日目に呼吸困難となり、摂取中止と同時に改善したことから薬剤性肺炎と診断された 70 代男性。

●アガリクスの摂取でALPと γ- GTP値が上昇した、胃十二指腸潰瘍と鉄欠乏性貧血の 50 代女性。

●健康増進を目的にアガリクスを摂取していたところ、3ヶ月後に全身の掻痒感、眼球結膜の黄染、褐色尿が出現した 50 代女性。

●肺がんの加療中に乾燥アガリクス 50g を 1.8L の焼酎に漬け込んだもの(約 30mL/ 日)を飲用していたところ、6ヶ月後に激しい掻痒を伴う紅斑が出現し、飲用を中止すると症状が劇的に改善した 70 代男性。

●入院前日よりアガリクスの摂取を開始し、 16 日目にあたる肺がん切除後に呼吸困難が出現し、摂取の中止で徐々に症状が改善した 70 代男性。

●悪性黒色腫の摘出後からアガリクスを摂取したところ、転移がないにもかかわらず悪性黒色腫腫瘍マ-カ-が高値となり、摂取中止後 10 日で正常値に戻った 40 代女性。

●健康増進を目的にアガリクスを摂取していたところ、2週間後に全身倦怠感と肝機能障害が出現し、アガリクスによる薬剤性肝障害と診断された 60 代女性。

●経口血糖降下薬の服用中にアガリクスを摂取したところ、6ヶ月後に急激な血糖の上昇、顔面と両上肢に皮疹が出現した糖尿病の 50 代女性。

●健康増進を目的に乾燥アガリクスの煎じ液を飲用したところ、6ヶ月後に口唇の乾燥感、亀裂、落屑性変化、腫脹、小水疱が出現し、アレルギー性接触性口唇炎と診断された 60 代男性。

●アガリクスを摂取していたところ、 1 ヶ月後に両手足の異常感覚が出現し、多発性神経障害と診断されたマントル細胞リンパ腫の 60 代男性。


こうしてみると、アガリクスには安全性に大きな問題があるように思われる。「健康維持を目的にコツコツとお飲みください。食品ですから副作用はなく、妊婦も子供も安心して飲めます」という宣伝文句は、百歩譲ったとしても断じて受け入れられない。

現に、厚生労働省は 2006 年 2 月 13 日、アガリクスを原材料とする「キリン細胞壁破砕アガリクス顆粒」に、発がん促進作用が認められたという国立医薬品食品研究所の試験結果に基づき、販売業者に対して自主的な販売停止と回収を要請している。

ところが国立健康・栄養研究所は、有効性と同じく安全性においても「ヒトに対する安全性については参考になる十分なデータは見当たらない」としている。なぜなら、報告されているのは動物実験や症例報告ばかりで、人間を対象にした比較対照試験が行われていないからだ。

そこで厚生労働省研究班は 2007 年 11 月 5 日、がんの治療が終了して経過観察中の 20 ~ 80 歳未満の男女約 90 名を3群に分け、量を変えてアガリクスを6ヶ月間摂取してもらう臨床試験に着手した。この比較対照試験は、肝臓、腎臓、呼吸などの機能の変化、アレルギー症状の有無などの安全性を評価するほか、免疫機能やQOLの変化も調べるというものだ。安全性が確認されれば、抗がん効果などについても評価する予定だという。結果を待ちたいところである。

(次号につづく)

代替医療通信, 第16号, 2007.

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